今、日本で農薬も化学肥料も使わないお茶づくりを実践している農家は4%ほどと言われています。雑草を引き、堆肥を自分で作り施していくというお茶づくりは、農業経営という視点では難しいのかもしれません。
でも、この村の農家さんは、それを、手間をかけることを、楽しんでおられます。80歳現役は珍しくないほど皆さんお元気です。空を見て風に聴いて、季節ごとの仕事を坦々とこなしていく姿に、私もこのように年を重ねたいといつも思います。
ラウンドアップ(除草剤)なるものが世に出た時も、「おお、そりゃあええもんができたのお」と感激したものの、「あんなに強い草が枯れよるもんは、なんかええことない気がしてのお」と思って使わなかったそうです。この「なんか…な気がする」能力、勇気、知恵を、私もこの地で身に付けていけたらと願っています。
柿木村の白谷茶園5反のうち、私が管理する1反を「夢見る茶畑」と呼んでいます。夢見る茶畑は、平成11年に神奈川県清川村で生まれ、私の移住と共に、ここ島根県吉賀町に移ってきました。夢見る茶畑では、もちろん農薬も化学肥料も一切使わず、圃場のどこにも除草剤も使っていません。近隣の笹や竹、いく種かの落ち葉、それにそば殻などを堆肥化させて肥料とし(お礼肥といいます)、循環型農法でお茶を栽培しています。
一般的に有機のお茶は美味しくないと言われますが、島根県環境保健公社による成分分析で、慣行栽培(農薬や化学肥料を利用)のお茶よりも「あと旨味」の高いお茶として評価されました。「あと旨味」というのは、飲み終えた後もいつまでも口の中に甘みが残るという旨味だそうです。2000年以上続く人とお茶の歴史の中で、化学肥料がお茶に使われたのはほんのここ数十年のことです。美味しいお茶をより簡単に生産しようとする知恵と技術は素晴らしいものですが、夢見る茶畑では、そもそものお茶の力を味わいたい、お茶そのものの味わいを知りたいという思いで、農に携わっています。